WebGPUは没入型メタバースを実現させるのか?
技術革命とブラウザ版メタバース:本記事ではWebGPUがメタバースにもたらす価値とデジタル時代におけるインタラクションについてご紹介します。
最新更新日: 2024年01月11日2024年のメタバースについて
メタバース:ビジネスへの期待と注目
2021年。FacebookがMetaへと社名変更、リブランディングしたと同時にメタバースの注目は急上昇しました。その注目度の高さから世界中で「次世代のインターネット」として期待されたことは記憶に新しい出来事ではないでしょうか。
しかしながら、2024年1月現在、当初の熱狂は落ち着き、一部の企業はメタバースの実用性や収益性に疑問を持っています。このような意見の交差や注目度の変化はバーチャル空間を作り出すための技術的課題や複雑なプロセスが要因となっています。
メタバースで盛り上がりを見せるZ世代
ピーク時に比べて企業の関心や注目が冷え込んでいるにもかかわらず、メタバースは特に若い世代の間で大きな盛り上がりと可能性を示しています。
Z世代やミレニアム世代は、デジタルネイティブと呼ばれ、デジタルインタラクションが当たり前の世界で育ってきたためすでにメタバースの概念やサービスを知らず知らずのうちに体験していることも多いです。そのような人々は没入型のゲームコンテンツやVRプラットフォームなど幅広い媒体でメタバースの概念に触れ、その体験を日々の生活にシームレスに取り込んでいます。
経済的可能性と将来性
企業がメタバースを否定するのには時期尚早であると考えられています。課題も残るメタバースですが、近い将来の消費者や潜在的な社会への影響力を考えると計り知れないチャンスと可能性があります。
予想されているメタバースの経済効果は依然として大きく、ブルームバーグ・インテリジェンスはメタバース市場が2024年までに8000億ドルに達すると予測しています。さらにAnalysis Groupはメタバース経済が世界のGDPの2.8%を占め10年以内に3兆ドルを超えるという見積もりを出しています。これらの数字は、現在の懐疑的な意見にかかわらず、新しい経済の中心としてメタバースの重要性を強調しているのではないでしょうか。
しかしながら、現在においてメタバースに課題はあります。アクセシビリティやハードウェアに関する要件、3D空間のクオリティなどいくつかの問題が論点になっており、ユーザーエクスペリエンスや実際のリーチに影響を及ぼしています。
メタバースの現在の課題
アクセシビリティのハードル
多くの可能性を秘めているメタバースが直面している大きな課題の一つが「アクセスしにくい」ことです。多くのメタバースプラットフォームではアプリをダウンロードしたり、スムーズな体験を楽しむためには高価なコンピュータやゲーム機、VRヘッドセットを用意する必要があります。
そのため、メタバースを体験するためにはお金をかけて周辺機器を用意したり、複雑なインストールなどのステップを踏む必要があり、多くの人が手軽に参加できない構図が出来上がってしまっています。
パフォーマンスとクオリティに関する課題
アクセシビリティに加えて、3D空間のクオリティや全体的なパフォーマンスについても多く懸念が残ります。現在、多くのメタバースプラットフォームでは大人数のアバターが参加する場合、高品質な3Dグラフィックスをレンダリングすることが難しく、苦労しています。
プラットフォームや3D空間の規模にもよりますが、画面上に表示できる最大のアバターの数は約200人と制限されています。それだけではなくバーチャル空間の奥行きやリアル感も大きく制限される場合があります。このような制限は世界観を作り込んで開催されるバーチャルコンサートやセミナーなどに大きな影響を及ぼします。没入感のある楽しい空間やイベントを作り出すには大人数のユーザーが一つの場所に集まることが重要です。
ブラウザ版メタバースが解決策となるのか
アクセシビリティやパフォーマンスの問題をブラウザ版のメタバースが解決するのではないかと考えられています。ウェブが元々持つアクセシビリティの高さを利用することで参加やアクセスのハードルを下げ、気軽に体験することができます。
スマートフォンからVR機器まであらゆるデバイスでクリックやQRコードのスキャンだけでアクセスできるメタバースを想像してみてください。ウェブのアクセスの手軽さは、複雑なダウンロードや初期設定、高価なハードウェアを必要とせず、より幅広いユーザーが仮想空間を体験することを可能にします。メタバースの普及に向けて民主化が起こるイメージです。
このアプローチはアクセスを容易にし潜在的なユーザー層を広げるだけでなく、バーチャル体験をより魅力的なものにするための様々な効果があります。
ブラウザ版メタバースがもたらす効果
一瞬でアクセスできて長時間滞在できる
繰り返しにはなりますが、ブラウザ版メタバースでは参加する際にダウンロードやインストールが一切不要です。リンクをクリックするか、QRコードをスキャンするだけでウェブ上にあるバーチャル空間に入ることができます。
シンプルなアクセス方法はユーザーにとって便利なだけでなく、マーケティングを目的とするメタバースプロジェクトにとっても大きな利益をもたらします。集客を目的とする場合、できるだけ多くの潜在的なユーザーを離脱させないことが重要となります。
仮想空間へのアクセスがシンプルであればあるほど、何気なく訪れた人々に自社の活動を知ってもらい、リード顧客やロイヤルカスタマー、ファンになってもらえる可能性が高くなります。
さらに、ユーザーがメタバースでより多くの時間を費やし、仮想空間の探索や他の人との出会いが生まれることで定期的なアクセスにつながります。
持続的なエンゲージメントを可能にするプラットフォームはメタバースを最大限に活用したいブランドや企業にとって非常に重要な要素となるのです。
技術的課題の解決
ウェブブラウザで3D空間を制作する場合、WebGLという技術が長い間使われてきました。現在確認できるブラウザ版のメタバースにもほぼ100%WebGLが使われています。
しかし、WebGLは2011年に設計されたため、最新のGPUテクノロジー向けには開発されていません。つまり、最新のハードウェアやソフトウェアの機能を最大限に活用することは難しく、できることが限られてしまいます。
それでも Utsuboでは過去数年間にわたってWebGL技術を利用したブラウザ版メタバース、SougenやKonpiなどのプロジェクトを開発してきました。WebGLが持つ能力を最大限引き出し、ウェブブラウザの3Dレンダリング機能の限界を押し上げることにも成功しています。例えば、私たちの開発環境では高品質な3Dグラフィックスやパーティクル(粒子)と共に最大2000人のアバターを同じ画面に表示することができ、それら全てがゲーミフィケーションへの応用に対応しています。
とはいえ、WebGLでこのようなメタバース環境を構築するためには多くの課題があるのも事実です。制限が厳しく、限りなく時間のかかるプロセスであり、クライアントの要望に応えるためにクオリティや機能面を妥協せざるをえないこともしばしばありました。
WebGLを活用することで、インパクトのあるデザインや大人数のユーザーをホストすることはできますが、そのためにはクオリティ、アクセシビリティ、パフォーマンスのバランスを慎重に取ることが必要です。
マーケティングツールとして活躍するブラウザ版メタバース
マーケティングの観点からもブラウザ版メタバースは大きな可能性を持っています。ウェブベースのプラットフォームを利用することで企業は自社のドメイン名を通じて直接ユーザーにアプローチすることができます。
これはRobloxやFortniteなどの従来のメタバースプラットフォームと比較して大きなメリットとなります。なぜなら、他のプラットフォーム上で自社のメタバースを展開する場合、ユーザーがアクセスすると他のブランドと交流する可能性が高くなります。そうすると、何らかの形でサードパーティのプラットフォーム上で問題が起こってしまう可能性があり、自社のブランドにも影響を与えることがあります。自社がコントロールできない箇所で生じるあらゆる問題のリスクを減らし、ブランドの評判と信頼を守るためにブラウザ版のメタバースは役立ちます。
最新技術、WebGPUの登場
WebGLが抱える課題や問題の多くを解決するために新しい技術、WebGPUが誕生しました。
WebGPUはブラウザ版のメタバースを単にアクセスしやすくするだけでなく、クオリティやパフォーマンスにも焦点を当てた世界中で注目されている最新技術です。WebGPUの登場により、メタバースには明るい未来が待っているのです。
WebGPUがメタバースの可能性を最大限に引き出す
パフォーマンスとデザインの新時代が到来
WebGPUはこれまでのウェブ技術とは比べ物にならないほどのパフォーマンスと卓越したビジュアル、そして多数のユーザーを同時にサポートすることを可能にし、メタバースの新しいフェーズを切り拓きます。
最新のGPUに対応するために特別に開発されたWebGPUは、これまでWebGLが成し遂げてきたことを遥かに超える新しい可能性を持っています。
この技術的進歩はウェブ業界のトッププレイヤーであるGoogle、Mozilla、Apple、Intel、そしてMicrosoftなど名だたる企業の共創と努力により実現しました。それらの企業たちは2017年にWebGPUの実現に向けて一同に集い、6年間の開発期間を経てついに2023年Chromeでリリースされました。FirefoxやSafariでの公開も予定されています。
バーチャル空間とAI
WebGPUの効果はグラフィックス機能を向上させるだけではありません。日々進化を見せる高度なAIの搭載を可能にします。
例えば、メタバース上にAIが搭載されたNPCを配置することができます。NPCによりメタバースにおけるインタラクティビティやエンゲージメントを大幅に向上させ、「誰もいない」仮想空間から「誰かと会える」メタバース空間になります。
メタバース上に作られたショップやストアでは、AIを搭載したバーチャルスタッフが顧客の好みに応じて商品を勧めたり、リアルタイムでの問い合わせに応答したり、さらには実際のショッピングのように買い物のプロセスを一貫してサポートすることなど様々な効果をもたらします。
バーチャル美術館や博物館でもAIとメタバースは大きな利益をもたらします。AIが搭載されたNPCはガイドとして豊富な知識と展示物に対する詳細な洞察を持ち合わせます。来場者の質問に答え、解説を加えたりリアルの展示物を見にくる方々に向けて有益な情報や案内を伝えることができます。AIアバターは美術品や展示物に関する情報を正確に提供し、来場者はインタラクティブな世界でより魅力的な体験を経験することになります。
AIアバターの搭載はミュージアムに対する満足度と教育的観点の価値を最大化させ、来場者とのつながりをより強固なものにします。
このようにAIの活用を最大限に引き出すことで従来のチャットボットで提供しているものをはるかに超える、ダイナミックでインパクトのある体験を人々に提供し、仮想空間とリアルの両方で効果を発揮します。
高度なゲーミフィケーションが高めるエンゲージメント
WebGPUの特徴の一つとして、複雑な物理エンジンを効率よく処理できることが挙げられます。WebGLでは容量の制限が厳しく、困難とされていました。
WebGPUが組み込まれたバーチャル空間では、ユーザーを取り囲む環境や仮想空間の物体とよりリアルなインタラクションを体験することができます。
これを利用して、例えばボールの動きがプレイヤーの動きにリアルに反応するバーチャルスポーツイベントや、一つ一つのピースが現実世界の物理法則に従って動くパズルゲームなど、これまでウェブブラウザでは物理シミュレーションの計算負荷によって実現することが困難だったリアルなインタラクションが可能になるのです。
さらにWebGPUが可能にするゲーミフィケーションは多くの人が体験できるインタラクションを作り出します。
ユーザーはSNSやメッセージングアプリでリンクを共有するだけで、友人や家族とデジタル体験を共有することができます。ブラウザ版メタバースの最大の特徴の一つである共有と参加の容易さは、リーチを増やし、プラットフォームが人気になるための要素を提供します。ダウンロードやインストールを必要としないシンプルなアクセス方法はメタバースの爆発的な成長と持続的なユーザーのエンゲージメントを著しく向上させます。
WebGPUとゲーミフィケーションを組み合わせることで、メタバースはより魅力的でインタラクティブなソーシャル体験となり、ユーザーを没入感のある世界に引き込むことができるのです。
よりリッチな体験へ。映像クオリティの向上
忘れてはならないWebGPUの大きな特徴は、映像解像度の向上にあります。高品質な4K映像を3D空間内で表示することができるのです。
この特徴はメタバースにとっても様々な場面で重要な効果を発揮します。例えば、バーチャルコンサートではアーティストのライブパフォーマンスを高画質でストリーミングすることができ、参加者はまるでイベントの最前列で体験しているかのような感覚を味わうことができます。教育的なコンテンツでは、リアルな教室や環境の中でビデオ講義を受け、学習に専念できる環境が整います。
同様に、専門的なセミナーやカンファレンスでは講演者がクリアな映像を通して、参加者に内容を伝えることができリモートでのプレゼンテーションでも対面式でのイベントと同じようなインパクトを与えることができます。高解像度な映像はバーチャル美術館や博物館にも変革をもたらし、実際の会場にいるのと同じようなクオリティの高いインスタレーションやアートを楽しむことができます。
3D空間の中でスムーズに再生される高画質のビデオは、臨場感を高めるだけでなく、体験の中核となるコンテンツの再現度や忠実度を最高品質で配信することを可能にするのです。
メタバースの中で鮮明かつ詳細な映像を配信することは、バーチャル空間がより効果的で魅力的、そして没入感のある環境へと生まれ変わることを意味します。
リアルタイムボディトラッキングとフェイストラッキング
WebGPUによってウェブの性能が向上することにより、メタバース空間で活用することができるリアルタイムのボディトラッキング機能が大幅に向上されます。
身体や顔の動きをアバターに正確に反映させる技術はバーチャル体験をより豊かにします。実際の感情や行動に基づくアバターの動きはバーチャルの世界で体験するすべてのものに対してリアル感を演出し、没入感のある体験を提供します。
特にアジアを中心に急速に拡大しているVtuberの分野では、アバターのリアルタイムな動きは重要な役割を担っており、WebGPUを活用することによりウェブカメラのみでバーチャルYouTuberの動きを再現します。
ライブ配信での顔の表情や動きを忠実に反映することはバーチャルな存在に深みと人間味を与えます。バーチャルライブで活躍するVtuberからオンラインセミナーの参加者、ゲームに没頭する人々まであらゆる人のエンゲージメントと満足度を高めます。
WebGPUにより効率的に処理された複雑なトラッキングシステムは、特別なハードウェアを必要とせず、一般的なデバイス上で高度なインタラクションを表現します。
WebGPUがもたらす技術革新はバーチャル空間で身体や顔の動きとアバターの動きを連動させるツールに民主化を起こし、クリエイターとユーザーの自己表現やより自然にメタバースで時間を過ごすことができる可能性を生み出すのです。
よって、バーチャル空間での一つ一つの体験がより深い意味と印象をもち、全体的な体験価値が向上するのです。
今後も進化を続けるメタバース
本記事ではWebGPUがメタバースの進化にとっていかに重要であるかをご紹介してきました。アクセシビリティ、パフォーマンス、クオリティの面で現在の課題や制限を大きく改善し、今後メタバースが私たちの生活にどのように関わってくるのか、ちょうどその転換期に誕生した重要な技術です。
WebGPUの技術を応用することで、メタバースは活気に満ち溢れ、すべての人にとって魅力的なものになり、無限大の可能性を持つ仮想空間としての役割を果たすことになるでしょう。没入型メタバース体験の未来はWebGPUによって新たなフェーズを迎えることになるのです。
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